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地球惑星科学とは

◎地球惑星科学とは
私たち生命を育む地球は「奇跡の星」とよばれることがあります.地球惑星科学はこの「奇跡」がいかにして起きたのかを明らかにすることを究極の目標とする学問といえます.地球はどのように誕生し,生命がうまれたのか,生命を育む星は地球だけなのか,生命はどのように人類にいたる進化をとげたのか,地球は45億年の間にどのように変わってきたのか,人間の営みによって未来の環境はどうなるのか,といった誰もが一度は考えたことのあるような問いへの答えをさがす学問です.地球惑星科学はこのように「自然をまるごと理解する」ことをめざすほか,地震や火山噴火,集中豪雨といった自然災害や地球温暖化などの環境問題といった「社会に直接関わる地球の諸問題の本質を理解する」ことをめざすという一面もあります.



自然の理解をめざす地球惑星科学において,その対象は多岐にわたります.自然の仕組みのなかにあるすべての物や現象が対象となると言ってもよいでしょう.それらを理解するための研究手法も多岐にわたります.世界中に残る地球の歴史の痕跡を観察したり,大地や大気,海からサンプルを採取して分析したり,コンピュータで明日の天気や将来の気候を予測したり,人類が未踏の地球深部の環境を実験室に再現したり,人工衛星で惑星間空間を観測したり,太陽系を探査機でさぐったり,といったさまざまです.多様な対象や手法に対する様々な研究が進めば進むほど,異なる対象や手法の最先端研究との相互理解がともすれば不十分になり,学問の細分化が起こります.地球惑星科学が本来めざすべき自然を統一的に理解する視点が細分化によって曇らぬように,地球惑星科学に関わる学協会が集まり,2005年,日本地球惑星科学連合がつくられました(参加学協会数48,会員総数5000人).

日本地球惑星科学連合では,地球惑星科学を以下に説明する5つの分野に大きく分類し,それぞれの分野での最先端研究の推進,将来構想の議論などをおこなうほか,それらを統合しての地球惑星科学の総合的前進を進めています.最大のイベントは毎年5月におこなわれる日本地球惑星科学連合大会で,様々な対象に対する最先端の研究をおこなっている研究者がそれぞれの垣根を越えて一同に会し,地球惑星科学の進展をめざした学術発表をおこなっています.大会では,一般向けに地球惑星科学の最先端を解説するトップセミナーや,地球惑星科学に関連した活動をおこなっている高校生による発表セッションなどアウトリーチや次世代育成をめざした取り組みもおこなっています.

◎地球惑星科学の5つの柱
宇宙と惑星の科学(宇宙惑星科学)
生命を育む地球という惑星が宇宙や太陽系のなかで特殊な存在なのか,それとも他にも似たような惑星が沢山存在するのかといった根源的問いへの答えをさがします.地球と宇宙空間をつなぐプラズマの世界である磁気圏の研究や,太陽系の他の惑星や衛星との比較を通じて,地球を客観的に位置づけるといった研究,地球外物質から太陽系の歴史を読み解く研究などがおこなわれています.天文学と重なりのある分野ですが,天文学に比べて,身近な宇宙を対象とし,また,地球や生命の存在を強く意識した研究がおこなわれています.

空と海,環境の科学(大気水圏科学)
地球の表面を覆う空や海の変化は日々の天気という私たちにもっとも身近な自然現象をつくりだします.地球表層の自然環境がどのように仕組みで成り立っているのか,過去からどのような変遷を辿り,将来どうなっていくのかを理解することをめざします.そのために過去の地球環境の記録を堆積物から調べたり,コンピュータを用いた大規模モデリングで気候の将来予測をおこなったりしています.地球環境の本質的理解を通して,地球温暖化や汚染物質拡散といった社会に直結する問題に対しても大きな貢献が期待される分野です.

人間と自然の関わりの科学(地球人間圏科学)
地球上で人間が生存していくためにおこなう活動は,植生や土壌,自然災害など自然界のさまざまな要因の影響を受けます.また,人為的二酸化炭素の排出など人間の活動が自然に影響をおよぼすこともあります.地球表面に社会という仕組みをつくった人間が地球環境とどのような関わりをもっているのかを明らかにしようとしています.工学や人文社会科学など理学以外の研究分野とも深い関わりをもつ分野で,大規模災害や環境問題,資源問題など現代社会が抱える諸問題の解決に向けた貢献も期待されています.

大地の科学(固体地球科学)
地震や火山噴火といった大地が起こす自然現象は,地球内部の地殻,マントル,核という層構造およびそれらが互いに関連しながらどのように動くかといった地球全体の活動と深く関連します.地球中心核から表面の大地まで,地球全体の活動の仕組みの理解をめざします.地震や火山の観測や地球内部からの岩石の分析,地球深部でのマグマや鉱物のふるまいを調べる実験,マントル対流など地球内部の活動のシミュレーションなどおこなわれています.また,地震や火山噴火といった現象の理解を通じた災害科学としての一面ももちます.

生命と地球の科学(地球生命科学)
地球にどのように生物が誕生し,現在の多様な生命の世界をつくるに至ったのか.地球環境と生命はどのような関わりをしてきたのか,などを明らかにしようとする地球惑星科学においても比較的新しい分野です.生物学や生命科学とも連携する分野ですが,地球の歴史全体にわたる長い時間での生物の進化や,生物と地球の進化との関わりに注目する点が特徴です.海洋酸性化など生物が関係する現代の環境問題も研究対象です.生命が地球に誕生し,進化したことが「奇跡」なのかどうか科学的に明らかにします.